賭博師ジャック 9巻


第9回 懐旧

ハルがエンリケの部屋に控えている一方、
ジャックは広間のバーカウンターに腰掛けていた。
ここからは勝負の舞台が一望できる。
彼は、頼んだ酒に口もつけず、
ただ戦いの舞台をしげしげと眺めていた。
変わらない面子に変わらない景色。
見つめれば見つめるほど、7年前のことが
まるで昨日のことのように思い出されてくる。

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「良かったら、奢らせてもらうが?」
誰かがジャックの背に話しかけた。
ジャックは振り返りもせずに、
無言で首を横に振る。
7年前を思い返すまでもなく、
声の主が誰なのかは明らかだった。
ウォンだ。
ウォンは7年前、キングの勝ちに賭けた。
キングに死の制裁を与えたのは、
何を隠そうこの男だった。

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「キングを超えたジャックの技……
 愉しみにしているぞ。」
それだけ言うと、ウォンはどこかへ去った。
「キングを超えたジャック……か。」
ジャックはあざ笑うかのように
唇の端をゆがませた。
長針がまた一つ先へと進む。
……11時50分。
あと10分で勝負の始まりだ。

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広間には観客たちが続々と集まり始めた。
みな今夜の勝負を心待ちにしているのだ。
2人にミラを賭ける者も大勢いる。
エンリケとウォンの勝負に比べれば、
勝負とは呼べないような額ではあるが。
ハルはエンリケを伴って広間に入って来た。
彼女はまっすぐ自分の席に向かい
正面を見据えたまま静かに腰を下ろす。
ギャラリーに対する物怖じはまるでない。
ハルが席につくのを見届けてから、

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ジャックはゆっくりと席を立った。
ハルとは違って有名人のジャックは
観客達から盛んに声をかけられる。
こんな歓声に包まれて浮き足立った
7年前の自分を思い出す。
ジャックとハル、両者が席についた。
広間の中央に据えられたカード台。
2人は向かい合ってはいるが、
その視線は決して交わることがない。
沈黙の中で時だけが過ぎ去っていく。

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2人が席についてからやや間を置いて
黒服の男がカード台の横にやって来た。
7年前と同じ、カードを配るだけの男。
シャムロック大老が用意したディーラーだ。
黒服はカード台の下にあるスイッチを入れる。
と、テーブルの周囲が一段低く沈み込み、
決戦の舞台は観客達に覗き込まれる形となる。
ジャックの背中越しにウォンたちが、
そしてその反対からはエンリケたちが

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2人の手元に熱い視線を投げかける。
さらにその背後からこの場を眺めているのが……
言わずもがな、シャムロック大老である。
「さあ、今宵の勝負は弔い合戦だ!」
7年ぶりの大勝負を前に、
興奮を抑えきれなくなったエンリケが叫んだ。

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