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《キャプテン・トーマスの大航海》
朝日を照り返した海がキラキラと輝いていた。
ここはエメラルド海。7つの海の中で1番美しい海。
かもめは舞い、イルカは群れゆく。
白い帆をいっぱいに広げ、波を力強くかきわける船が
あった。キャプテン・トーマスのひきいる”白い渡り
鳥”プラネトス号である。
プラネトス号は今日も自由に海を行くのだ。
キャプテン・トーマスは、遂に海賊王ラモンのアジト
を発見した。海の荒らくれ者、海賊王ラモン。この美
しいエメラルド海にその本拠があろうとは、誰が想像
できただろうか・・・。
『今度こそ逃がしはしないぞ!』朝日の甲板に立つ
キャプテン・トーマスは、赤銅色に焼けた太い腕に、
グッと力を込めてつぶやいた。勝負は夕刻、海賊島の
南西1200ミロの海域だ。
プラネトス号は順調に進み、昼過ぎには予定の海域に
到達した。海賊王ラモンとは何度も戦ったが、奴の縄
張りでの戦いは初めてだ。どんな罠が待っているかも
知れない。トーマスは錨を下ろし、見張りを立てた。
やがて、太陽もかなり下がったころ、海賊王ラモンの
ひきいる船団が見えてきた。その数は6隻。
どれも特大の大砲をつけた戦艦だった。こちらも大砲
はあるものの、プラネトス号1隻のみだ。
だが、ここで敵に背を見せるわけにはいかない。
『今日こそ雌雄を決するときなのだ・・・。』
夕日にそまるエメラルド海ではキャプテン・トーマス
と海賊王ラモンの最後の戦いが始まろうとしていた。
ラモンの砲撃が始まった。音だけは凄いが届かない。
キャプテン・トーマスは船を回して風上をとった。
『おのれ! 風上をとられたか!』海賊王ラモンは
悔しげに叫んだ。これでは砲弾は当たらない。
しかし、これからこそが本当のキャプテン・トーマス
の作戦だった。『帆をいっぱいに広げろ!!』
その声に、マストから一斉に白い花が広がった。
プラネトス号は砲弾のように飛び出した。
風に乗るプラネトス号を誰も止めることはできない。
『ラモンの船に体当たりだ! 白兵戦だ!』
舵輪が滑車のように回り、プラネトス号はラモンの船
めがけ、まっしぐらに進路をとった。
邪魔をする船には砲弾のお返しだ。
プラネトス号は目標にぶつかる前に、すでに3隻を沈
めた。『キャプテン・トーマスめ、こしゃくな!』
海賊王ラモンは忌々しげに地団駄を踏んだ。
ラモンの船の側面にプラネトス号が突っ込んだ。
『乗り込め! 飛び移れ!』くっついた2隻の乗組員
が入り乱れ、白兵戦が始まった。キャプテン・トーマ
スは海賊王ラモンを探し、沈み始めた船を駆ける。
『ラモン! どこにいる! このキャプテン・トーマ
スが相手だ!!』海賊王ラモンは後ろから突然斬りか
かった。『どりゃあ!』トーマスは紙一重でかわす。
『卑怯者め!』打ち合う剣から火花が散った。
浸水した船体が大きく傾き始めた。
『ラモン! 今日こそが、お前の最後のときだ!』
『それは・・・どうかな。お前も終わりだ!』
苦しまぎれのラモンは爆薬に火をつけた。
『みんなっ、海に飛び込めーっ!!』
キャプテン・トーマスは叫びながら海に飛びこんだ。
2隻の船はくっついたまま轟音とともにふっとんだ。
キャプテンの最後の航海はこうして幕を閉じた。
この海戦の後、海賊さわぎはなくなった。
だが、それ以来、キャプテン・トーマスの雄姿を見た
者もいない。我々は、渡り鳥を見るたびに思い出すだ
ろう。プラネトス号をかり、七つの海を渡った男。
キャプテン・トーマスのいたことを・・・。
                  END