(詰碁の創り方) 第1回
塚本惠一 著 [詰碁世界第6号(2000年7月発行)掲載]


詰碁世界第2号に掲載された鈴木良子さんの「詰碁世界への提言」を読んで、実現できれば素晴らしい企画揃いと感心していました。特に「創作詰碁入門講座」は、そう言えば従来はなかったものだし、詰碁作家である私の創作方法を紹介するのも一興かもしれないと思ったものです。しかし、実際に筆を取ろうとして、これは大変なテーマであると気づき愕然としたものです。
経験のない方に詰碁の創作方法を説明するためには、まず詰碁がどういうもので、どんな詰碁が良い詰碁かを説明しなければなりません。そんな話を長々と書いたら肝心の作図方法をいつ始められるかも分かりません。
愚考すること1年近くになって、話が多少前後することなどは諦めてでも、とにかく色々書いてみるべきだという結論に達しました。詰碁のルールや評価基準や作図方法などなど、ごちゃ混ぜの話になりそうですが、ご寛容をお願いいたします。
第1回である今回は「生死不明形の検討法」の「包囲緩和法」という作図方法を紹介します。なお、詰碁の作図法に世間で認められた名前があるわけではなく、この講座で用いる作図法の名前はすべて塚本が付けたものとご理解ください。
「生死不明形の検討法」について説明します。実戦でも生死不明の形ができることがあります。それに対する手段を読んで手入れの要否を決めるわけです。詰碁の死活問題に強くなると大抵の形は手順を追わなくても生死が勘で分かるようになるものです。それでも、ちょっと眺めたくらいでは生死不明と言わざるを得ない形が残ります。そういうキワドイ形が詰碁の候補である場合が多いのです。私は暇で心も平静なときは碁盤に石を適当にバラまいて「一目で」生死を判断する一人遊びをやっています。そこで生死不明の形に出会ったら、メモしておいて、後でじっくり研究するのです。
故意に生死不明の形を作り出す方法もあります。その一つが「包囲緩和法」です。見るからに地のような狭いところでは生きられませんし、広い模様に打ち込んだ石は簡単には死にません。包囲が広くなれば中の石は生きやすくなるわけです。

1図 黒先白死
2図 手段1
3図 手段2
1図は死活の基本形ですが、2図と3図の2通りの手段があるので詰碁ではありません。パズルである詰碁は「答えが1通り」でないと解く人を混乱させるのでまずいのです。この「答えが1通り」が詰碁の基本ルールです。
1図に手を加えて詰碁にすることを考えます。2通りの手段で殺せるのは中の石が弱いからだと考えます。逆に言えば包囲している黒が狭いから強すぎるということになります。そこで黒石を少しずつ遠ざけて包囲を緩和していくのです。

4図 候補1

  4図は黒aでも黒bでも白死ですから、まだ包囲が強すぎます。


5図 候補2
6図 失敗
7図 正解
5図になると状況が変わります。6図の黒1から黒3は白4があって成立しなくなっています。中から攻める7図の黒1の方は白2に黒3以下で大丈夫です。しかも、7図の手順は必然と言っても差し支えないものです。かくして初級者向けの詰碁(5図)が1題出来上がりです。
うまく行きすぎのように思われるかもしれませんが、生死不明の形に対する手段はいくつもあることの方が少ないものです。

この「包囲緩和法」で作図した拙作を一つ紹介します。

8図 「算月」第20題「階段」黒先
9図 8図の解  コウ
左右同形にしては変化が多い方でしょう。こういう詰碁を創るのには運もあります。けれども根気よく図を直しては読み返す努力を重ねていると、詰碁の女神がほほえんでくれることも多いものです。それを見落とさないのが創作の感覚です。
この「包囲緩和法」は周囲の石の配置を変えて読むだけですから、容易に試していただけると思います。最初は時間がかかると思いますが、たとえ作図に失敗しても、読みの訓練だと思えば時間の無駄ではありません。
「1題の詰碁を作図するのは100題の詰碁を解くのに相当する」という言葉もあります。難しさではなく棋力向上への効果を指すものと理解していただきたいと思います。


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