(詰碁の創り方) 第10回
塚本惠一 著 [詰碁世界第15号(2002年10月発行)掲載]


詰将棋に親しまれている方なら「逆算」という作図法をご存じだと思います。詰碁でも逆算することがないわけではないのですが、あまり好ましいとは言えない事情があります。とは言え、作図の練習には悪くない手法ですし、作品の難しさを増したり、初形を簡素化するために必要になることもあります。そこで、今回は逆算について書いてみたいと思います。

1図 黒先コウ
2図 正解
3図 新詰碁
1図は初級の詰碁です。2図の黒1をうっかりしなければ黒3黒5の常用の手筋でコウになります。黒5黒3の順でもかまいません。これではやさしいから、と手数を延ばすことを考えます。そうして白黒1子ずつを除いたのが3図の新詰碁です。3図の正解は言うまでもなく、黒が出て、白が渡り、後は2図の手順になるわけです。このように、ある詰碁から手順を逆に戻した詰碁を作ることを逆算と称します。
さて、3図は1図より2手延びたのですが、これが改良と言えるでしょうか。3図から黒が出る手も白が渡る手も他に考えようのない絶対の交換です。このような絶対手は詰手順からできる限り排除すべきなのです。絶対の交換や凡手を含む詰手順は「弱い」と称されて作品の評価を下げてしまいます。この詰碁の場合、3図で出題する人はまずいないでしょう。
難しさを増すための逆算では、新たな紛れなどが生じていることが不可欠と言えます。しかも、そうして序を難しくしたことで、作品の主眼とすべき手段がボケてしまうマイナスも心配しなければなりません。
数少ない逆算の成功例の一つを次に示します。

4図 黒先白死
5図 正解
6図 新詰碁
4図は実戦に生じる死活問題で手段が一通りなので詰碁の条件は満たしています。しかし、初手が眼取りのハネという絶対手であることが面白くありません。それで、4図を見た人は誰でも、黒ケイマスベリから始められないかと思うわけです。しかし、4図から黒ケイマと白ツキアタリを除いた形では黒オキ(5図の1の所)の余詰があって詰碁になりません。
この問題を白の形を変えることで解決したのが6図です。これなら水準作と認めてよいでしょう。
第4回に前田陳爾先生の「創作詰碁の条件」を紹介しましたが、その一つがスタイルでした。コンパクトで石数の少ない配置なら、手を出してみよう、となるわけです。私はスタイル重視型ですので、それを目的に逆算することがあります。拙作を一つ紹介します。

7図 黒先白死
8図
4子を捨てて殺す古典を逆算したものです。初形には捨てる4子のうちの1子しか配置されていないところがミソで、ここまで逆算すれば新作として通用すると思います。解いた方から「新鮮」という言葉をいただいています。



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