(詰碁の創り方) 第6回
塚本惠一 著 [詰碁世界第11号(2001年10月発行)掲載]


今回から詰碁のルールについて説明したいと思います。「ルール」と書くと難しいことのように思われるかもしれませんが、どのような問題なら詰碁と言えるか、詰碁の解答はどう書くべきか、という話です。
本誌「詰碁世界」の「創作詰碁応募要領」には以下のように記されています。

詰碁は石の死活を問うパズルで、後手は地の損得にかかわらず最強の手段で応じる約束になっています。手段が最強というのは、無条件かコウかなどの死活の結果で判断されます。本コウとヨセコウなどについては、コウを解決するまでの手数で判断されます。そのような先手後手の応酬が一通りであるものがパズルの問題として望ましい詰碁です。少なくとも初手は1か所に限定されなければいけません。

こういうルールをはっきりさせておかないと、作図者が「詰碁ができた」と見せたときに解図者が「詰碁になっていない失題」とクレームをつけたり、解図者が「解けた、手順はこう」と言ったときに出題者が「後手が最強ではないから不正解」などともめる心配があります。
今回は「無駄手」についての話をします。「無駄手」についての慣例を書けば以下のようになります。

  1. 相手に受けられるだけで詰手筋や詰手順に影響しない手が無駄手である。
  2. 詰碁の解答の際は詰手順には無駄手を含めない。

1図

1図の黒1が「逃げるぞ」という無駄手です。しかし、脱出の効きを利用して凌ぐ詰碁も数多くあるので、無駄手かどうかの判断は微妙な場合もあります。従って、詰碁のルールとしては黒1は客観性を欠いていると言われてしまいそうです。そこで本誌の応募要領では、無駄手を含めて「初手は1か所」としているのです。

いわゆる「味悪の詰碁」というものがあります。出題図の配置の外側まで逃げ回ることができるが、周りに何もないなら逃げ切れない、という類いの問題です。発陽論の名人因碩などはむしろ味悪を楽しんでいる風ですが、故前田陳爾九段や橋本宇太郎九段は「味悪は避ける」流儀でした。

2図 黒先生き
3図 1図の解
4図 無駄手

しかしながら、初手に限っても、無駄手を排除するのは容易なことではありません。2図は黒の外ダメが空いているので3図の黒1が成立して黒生きとなる問題です。が、これには4図の無駄手が隠れています。で、厳密に言えば1図は本誌には出題不適切となります。だからと言って「2図は失題」というのは囲碁人の慣例に反すると言うべきでしょう。
本当はルールの問題で、無駄手を厳密に定義できれば良いのです。
本講座では、作図者は可能な限り無駄手を排除すること、解図者は明らかな無駄手には茶々を入れないこと、をお願いするのみです。無駄手は詰手順には含まれないもの、であるからです。
4図の黒1を消すには白2で押さえられるようにすればよく、以下のような5、6、7図にする案があります。私はなるべく無駄手消しを行うようにしています。

5図
6図
7図

詰碁の作図で大変なのは余詰さがしと余詰消しです。今回のテーマである初手の無駄手消しも、繰り返せば、初手の余詰消しの力をつけるのに役立つものです。簡単な余詰消しの例を紹介しましょう。

8図 作意
9図 余詰
10図 修正図
8図の狙いはサガリキリと関連する黒1のオキですが、9図の黒1のハネも成立するので、これでは失題です。この9図のハネを消すのは簡単で10図のように白のハネを一つ加えるだけで済みます。

11図 失題
12図 修正図1
13図 修正図2
11図は隅の六目が死形であることを利用して白からのサガリやコスミの効きをなくせば白死という死活問題です。昔、こういう図が「詰碁」として出題されているのを見てあきれたことがありました。黒は a 〜 e のどこでも白を殺せるからです。これは12図の形にすれば初手を a に限定できます。後にある本で13図を見て、巧い、と感心させられたものです。余詰を消すために思いきった図の変更が有効なことも多いものです。



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